20代と30代のほとんどを、私は東京とサンフランシスコを行き来しながら過ごしました。その年月の多くを、太平洋の両岸から同じ問いに向き合ってきたことになります。ブランドやプロダクトは、文化を超えてどうすれば本当に伝わるのか。言葉を置き換えるだけではなく、その奥にある意味や価値をどう伝えるかという問いです。
私のキャリアは、2000年代初頭、日本でクリエイティブディレクターとして始まりました。Scient Japan、その後MRM/McCannで、日立、横河電機、三菱商事、ANA、NTTドコモといった日本企業の価値を、海外の顧客にどう伝えるかを考える仕事です。Hitachi.comのグローバルリローンチをリードし、グッドデザイン賞を受賞しました。横河電機のB2Bブランドプラットフォーム「Vigilance」も手がけ、こちらもマーケティング賞を受賞しています。
サンフランシスコに戻った後は、Ideas in Digitalという小さなデジタルエージェンシーを共同創業し、今度は太平洋の反対側から同じ課題に取り組みました。TEPCO、再び横河電機、KDDI、日本航空、Modere Japan。自ら経営する会社として、こうした企業を支援することには、それまでとは違う手応えがありました。クライアントの成功を積み重ねながら事業を続け、チームを育て、複数のWebby Awardsも受賞しました。
その後、Adobeに参加する機会を得ました。同社初のInternational Designチームを立ち上げ、アジアの顧客に向けたソフトウェアをデザインするとともに、LINE、Alibaba、Tencentのデザインチームと直接パートナーシップを組みました。ここで、私のキャリアの軸は大きく変わりました。Webデザインとブランドの仕事からプロダクトデザインの世界へ移り、やがてAdobe Express Photosという、ゼロから立ち上げるAI画像編集ツールを任されることになりました。これが、私にとって初めてのAIプロダクトデザインでした。チームと私は、AIによる写真編集をユーザーが信頼できる体験にするため、一つひとつの画面とインタラクションを設計しました。
その経験を生かし、次にWalmartでコアコマースチームのデザインを率いました。同社のAI検索や、生成AIを活用した商品詳細ページの構築にも携わっています。また、AIが顧客の実際の住まいや暮らしをより深く理解できるようにするツール「Walmart Camera」のビジョンも率いました。ここで、マルチモーダルAIデザインが私の新たな専門領域に加わりました。
そして直近では、日本を代表するAIリーガルテック企業LegalOnとパートナーシップを組み、Chief Design Officerとそのチームとともに、グローバル展開を支えるブランドプラットフォームを構築しました。この20年間で培ってきた経験の集大成となる仕事でした。ブランド戦略とデザイン、革新的なAI、そして企業のグローバル成長支援が、一つに重なり合う仕事です。
なぜRaftなのか
こうした経験の積み重ねに、いつか名前をつける必要がありました。頭に浮かび続けたのは、いつも同じイメージです。
一つの航路のためにつくられた船ではありません。いかだです。
いかだは、流れに逆らいません。流れを読み、状況に合わせて調整しながら、進み続けます。当時は気づいていませんでしたが、それは私自身のキャリアのあり方に近いものでした。エージェンシーからAdobeへ。ブランドからプロダクトへ。東京とサンフランシスコの間を、数え切れないほど往復しました。環境が変わるたびに、これまでの構造を守ろうとするのではなく、新しい水域での進み方を学び直してきました。
これは、穏やかな時代に起きたことではありません。今のテック業界は、私がこの20年間で経験した中でも特に先を読みづらく、レイオフやチーム全体の解散が一夜にして起こります。安全な選択は、大きな組織に錨を下ろし、嵐が過ぎるのを待つことでした。けれど、私は待ちたくありませんでした。AIツールによって、今では一人でも、かつてのスタジオチーム全体に近い仕事ができるようになっています。そして20年分の経験を、棚に置いたままにしておくには長すぎます。その経験を、AIについて語るだけでなく、実際に何かをつくろうとしている企業のために、もう一度生かしたいと思いました。
いかだは、誰かを乗せて水を渡ってこそ意味を持ちます。それが、この名前に込めたもう一つの意味です。このスタジオでは、Figma、Claude、Claude Codeを使い、AIを活用しながら実際にものをつくります。以前ならはるかに大きなチームを必要としたスピードと品質で、アイデアを形にします。そして、その知識と実践力をクライアントのチームにも持ち込みます。他社が導入しているからという理由でAI機能を後付けするのではなく、AIがその企業のプロダクト、顧客、事業にとって本当は何を意味するのかを、ともに見極めていく仕事です。
これが、Raft Designの中心にあるテーゼです。水の流れが変わり続ける中でも、企業を目的地まで届けること。私はこの20年間、その変化を両側から見てきました。まだブランドを確立できていないまま、速いスピードで成長するスタートアップ。長年の信頼を持ちながら、それをAIファーストの世界へどう引き継ぐかを模索している大企業。Raftが目指すのは、速く動けるだけの軽さと、他社がまだ航海の方法を学んでいる未知の水域を、自信を持って渡り切れるだけの強さを兼ね備えたものをつくることです。
つくる
スタジオの考え方を体現するには、まずサイトが必要でした。そこで、自分自身の手で、最初から英語と日本語の両方に対応したサイトをつくりました。Claude、Figma、Claude Codeを使って構築し、その制作プロセスから、戦略を考えるのと同じくらい多くのことを学びました。
最初からバイリンガルで設計することは、このプロジェクトの中でも特に重要な部分でした。米国のクライアントと日本のクライアントの両方に、同じようにきちんと届くこと。そして検索だけでなく、ChatGPTやGeminiのようなAIを通じても、それぞれの読者に適切な言語で見つけてもらえることを重視しました。デザインシステム全体をFigmaの変数で構築し、同じ変数構造を使って、Claude Codeにダークモードとライトモードの両方を実装させました。一つのデザイントークン構造が、二つの言語版と二つのカラーモードを同時に動かしているのを見たとき、この働き方がLinkedInで目にするAnthropicのデモにとどまらず、実際の制作でも成立することを、これまでで最も明確に確信しました。
Figmaの新しいMotion機能を使い、静止画面だけでなく、小さく意図的なGIFアニメーションをサイト全体に配置できたことも、個人的にわくわくした部分です。「止まらず、動き続けること」を思想の中心に置くスタジオにとって、これは見た目以上に重要な意味を持ちます。Webがまだ新しく、可能性に満ちていた頃、Flashデザイナーとして働いていた時代を思い出させてくれる作業でもありました。
さらに興味深かったのは、従来のSEOと並行して、GEO、Generative Engine Optimizationについて学んだことです。その過程で、Lovableを使って「Design Intelligence」という診断ツールも開発しました。サイト内に英語版と日本語版の両方を組み込み、URLを入力するだけで、デザイン品質、ブランドコンテンツ、LLMからの読み取りやすさ、アクセシビリティについてのスコアを確認できます。デザインとAIに関心のある人が、私に連絡する前から、何か本当に役立つことを学べるようにしたいと考えました。こちらから試せます:https://design-intelligence-engine.lovable.app
このツールの開発と並行して、LLMがサイトの内容を正しくクロールし、理解し、引用できるように、サイト全体の構造も整えました。その過程で学んだのは、人間にとって十分によくできたサイトと、ChatGPTやGeminiが正しく読み取り、引用できるほど構造化されたサイトは、ますます別のものになりつつあるということです。その両方を正しく設計することは、もはや独立した専門領域です。大手を含む多くのスタジオも、まだ十分には追いついていないと感じています。
自分自身のアイデンティティをデザインすることは、他者のアイデンティティをデザインするのとは、まったく違う経験でした。行き過ぎたアイデアに「待った」をかけるクライアントはいません。つまり、本当のチェックは一つだけです。一週間後も、自分がそれを信じているかどうか。
私は今も、これを信じています。
Raft Designは、raftdesign.studioにて公開中です。
